平成26年度の行政書士法改正により、特定行政書士制度が誕生しました。本制度により、それまでは本人か弁護士にしか出来なかった行政庁への不服申立て手続きが、行政書士もできるようになりました(行政書士が作成した書類に限る)。その不服申立て手続きができる行政書士のことを特定行政書士といいます。特定行政書士になるためには、行政書士として登録された後、日本行政書士連合会が実施する法定研修と考査(試験)に合格する必要があります。
私は令和4年の5月に行政書士として登録し、その年の特定行政書士法定研修・考査を受け、無事に特定行政書士になることができました。これがもし2年後、3年後に先延ばししていたら、研修を修了するのに相当苦労しただろうなと感じています。本記事では、行政書士に登録したらまず、その年度に実施される特定行政書士研修を受けるべき理由をご紹介します。
行政書士登録後は、すぐその年度の特定行政書士に挑戦しよう
『行政法』の分野が、行政書士試験と被っている
特定行政書士研修の範囲は、主に『行政法』分野と、『要件事実・事実認定』分野の2分野に分けられます。そしてそのうちの『行政法』分野については、行政書士試験で勉強した範囲とほぼ同じです。お分かりのように行政法には、①行政手続法、②行政不服審査法、③行政事件訴訟法があり、それぞれの違いやその法律独自の論点など、とても紛らわしく難しい法律です。行政書士試験から時間を空けてしまえばしまうほど、せっかく勉強して得た知識や暗記した内容を忘れてしまいます。
さらに、もう一つの分野である『要件事実・事実認定』分野は、ほとんどの行政書士は初めて学ぶ分野となります。裁判における考え方など抽象的な内容が多く、私も今回研修を受講して大変苦労しました。行政書士試験に合格してすぐだと、行政法の知識はある程度覚えているため、その分、要件事実・事実認定の勉強に時間を使うことができ効率が良いです。
開業直後は、勉強の時間を作りやすい
行政書士を開業後、最初からどんどん依頼が来てバリバリ仕事をこなすということが理想であり、実際そのような行政書士の方もいるとは思います。しかしながら、多くの方は徐々に仕事量が増えていくというのが一般的でしょう。開業当初は依頼者が少ないため、実務の勉強や集客に向けた活動などが主な業務ということもあり、特定行政書士研修に必要な勉強時間を確保するのが容易です。これが2年後、3年後になると、実務も波に乗り始めていると頃だと思いますので、依頼者の都合に合わせて打合せしたり、行政庁への申請期限が迫っていたりと、特定行政書士研修のために時間を捻出するのが難しくなってしまいます。よって本格的に実務に追われる前の開業後すぐに、特定行政書士研修を受けておくと良いと思います。
勉強の習慣がついているうちに研修に取り組める
これは行政書士試験の合格後に即登録した方限定の話になってしまいますが、即登録した方は試験勉強のときの勢いそのままに特定行政書士研修にも取り組めると思います。試験勉強で培った学習習慣は、何もしないでいるとすぐ抜けてしまうものです。その習慣が抜けないうちに、一気に特定行政書士取得まで駆け抜けてしまいましょう。
特定行政書士法定研修を受けて良かったこと
行政法の知識が定着した
行政書士は実務における幅が広いことで有名です。行政書士試験後は、それぞれのやりたい分野に向けて、実務の勉強がメインとなります。そうするとどうしても行政書士試験でせっかく覚えた行政法の知識が抜けていってしまい、最悪は忘れさられてしまいます。それでは行政との架け橋を担っている行政書士としては失格です。特定行政書士研修で再度行政法を学ぶことで、忘れかけていた知識を思い出し、さらに知識が定着することでしょう。実際、私も行政書士試験後は行政法には全く触れていない状態で特定行政書士研修を受講したのですが、試験から1年も経たないうちに忘れてしまっている論点が多々ありましたので、改めて研修を受けて良かったと思いました。
また、公務員として行政事務を一定年数を経験し行政書士登録された方にとっても、それまで自分が実際に業務で行っていた行政手続きを、法律である行政法として学びなおすことができるので、知識として身に着けることができると思います。
修了証が届いた際の達成感が得られる
これは特定行政書士研修に限った話ではないのですが、何かの目標が無いと勉強のモチベーションの維持は難しいです。行政書士として登録したはいいけど、なかなか仕事を得られなかったり、営業でしくじり先生になったり、開業後はうまくいかないことが多いと思います。実務の勉強は必要なですが、奥が深すぎたり、実際に業務の依頼が来なかったときのことを考えると、達成感が得られないこともしばしば。そのような状況の中で、資格の勉強をして合格すると達成感が生まれ、それが実務へのモチベーションになります。特定行政書士の考査は、毎年合格率が50%以上あります。しっかり準備して臨めば合格できる試験ですので、開業後のモチベーションを高く保つためにも受講することをオススメします。
まとめ:『特定』が付くとちょっとだけかっこいいよね
今回は特定行政書士の法定研修は、開業したその年に挑戦すべき理由について説明しました。
正直なところ特定行政書士として不服申立ての業務は多くありません。少なくとも私は1件も遭遇したことがありません。その理由としては、実際の許認可申請の場合、役所側と事前に十分な協議をしたり不明点などの相談をしたりと、お互いに協力して進めることが多いためです。そして不許可となるような案件については、そもそも要件を満たしていなかったり、書類に不備があったりと、申請する側の問題がほとんどです。よって今後も業務として特定行政書士を使う機会は少ないと思われます。
しかしながら特定行政書士の制度について依頼者様に知ってもらうことで、「いざというときには不服申立ての手続きまでお任せできる」という安心感を与えることができ、多少なり受任率を向上させられると考えております。そして『特定』となると特別感があって、少しだけかっこいいですよね。笑
いずれ特定行政書士を取ろうと考えている方は、行政書士に登録してからあまり時間を空けずに、是非すぐに挑戦しちゃいましょう。